2026.10.26
来月の献立を AI に考えさせる — 決めるのは最後まで栄養士、という線の引き方
毎月、献立作りに何時間かけているだろう。
施設給食や介護食堂の担当者に聞くと、「来月の 1 ヶ月分を組むのに 2〜3 日かかる」という話が出る。主菜の重複チェック、食種ごとの栄養基準の確認、アレルギー対応の除外、調理現場の人員負荷の見積もり——全部を人手でやっている。
ぼくが見ているのは、この「たたき台を作る」部分を AI に任せて、栄養士は確認と判断に専念するやり方だ。
何ができて、何が変わらないか
AI に献立案を作らせてできるのは、「過去の実績から大きく外れないたたき台を短時間で出す」ことだと思っている。
具体的には次の 3 点:
- 主菜の間隔が詰まりすぎていないか(同じ焼き魚が 5 日後にもう一度出ていないか)を過去実績のローテーションから確認する
- 治療食の栄養基準(エネルギー・塩分・タンパク質など)の計算値を 1 日ごとに数字で出す
- 「ここは確認が要る」というリストを一緒に出す——基準に近づきすぎている日、初めて使う食材、調達が特殊なものなど
変わらないのは、最終確認を人がやる点だ。特にアレルギー対応は、確認する前の案をそのまま出してしまうと事故になる。AI は「アレルゲンを含むかもしれない加工食品」が出てきたときに、判断せずに要確認リストに振る。そのリストを見て「使っていい」「使えない」を決めるのは栄養士の仕事で、AI が踏み込む場所ではない。
医療上の食事療法の変更——たとえば「この人の食種を普通食から低タンパク食に切り替える」——も同じで、医師と管理栄養士が判断する領域だと思っている。AI が出すのはあくまで「過去実績に沿った案と、確認が要る場所の一覧」まで。
実際の使い方 — 過去の献立を渡して来月の案を作らせる
準備するのは次の 3 点:
- 過去献立のデータ — 6〜12 ヶ月分の実績(Excel や CSV)。3 ヶ月分でも動くが、季節感とローテーションの精度は下がる
- 対象期間と食種の指定 — 「来月 1 ヶ月分・常食と軟菜食と低塩食、各食数」のように具体的に
- 栄養基準の数値 — 施設ごとの食種別の基準(カロリー・塩分・タンパク等)をテキストで渡す
この 3 点を AI に渡すと、1 日 3 食 × 期間分の献立表(Excel 互換の表形式)と要確認リストが返ってくる。行事食(年末の鍋、節分の恵方巻き風など)が必要なら、その旨を指示に加えると案に盛り込まれる。
要確認リストは、「この判断だけは栄養士に確認してほしい」という箇所をまとめたものだ。全部を一から見直すよりも、リストに出た場所だけ確認する形のほうが時間が変わる。
しくみ — 技術的にはこうなっている
使ったもの: Claude (AI) のプロジェクト機能(ファイルをアップロードして繰り返し参照できる機能)。過去献立 Excel をそこに置いて使う
データの流れ: 過去献立 Excel をプロジェクトにアップロード → AI が読み込む → 栄養基準と対象期間の指示を渡す → 献立案の表 + 要確認リストが返ってくる。外部の発注システムや医療記録とはつながっていない。発注の確定はここでは行わない
個人情報の扱い: 過去献立に入院患者や利用者の氏名・ID が含まれている場合は、AI に渡す前に名前を削除するか「氏名: 非表示」に置き換える。食種や制約条件だけを渡す形に整えてから使う
失敗した時の挙動: AI は栄養価の数値が分からない食材が出てきたとき、空欄のまま要確認リストに入れる。出典(食品成分表の数値)が持てないものに数字を書かない、という動きをする。「分からないなら分からないと言う」設計になっている
費用の形: Claude Team プランは事務所全体の AI 利用としての月額契約になる(最新料金は Anthropic の公式サイトで確認してほしい)。献立作成だけのために契約するのではなく、他の事務作業にも同じプランを使い回す形になる
アレルギー対応は手順から外さない
ぼくが最初に決めておくべきだと考えているのは、AI に渡す指示のなかで「このアレルゲンを含む食材は出さない」を明示することだ。
指示に書いておくと、献立案の段階でその食材は含まれなくなる。ただし、加工食品(ルウや合わせ調味料など)の原材料が不明な場合は、AI は判断せず要確認リストに振る。
この「要確認」に出た場所だけは、栄養士が必ず目を通す。そこを飛ばさない手順を最初に決めておかないと、AI の案を確認しないまま通してしまうリスクが残る。たたき台の精度よりも、確認の抜けをなくす仕組みのほうが先に考えることだと思っている。
最初の一歩としてやれること
今月試せることを 1 つ挙げるなら、今月の献立実績 Excel を AI に渡して「来月の主菜候補を 30 品リストアップして、同じ料理が 7 日以内に重複しないように並べて」と頼んでみることだと思う。
本格的に使うには、栄養基準の数値を整理して食種ごとの指示文を準備する作業がある。そこが整ってはじめて、毎月の献立作成の時間が変わる。
施設給食や介護食堂への AI の導入を具体的に検討したい場合は、お問い合わせからどうぞ。導入前のヒアリングも承っています。